A邸の屋上庭園は、長谷川隆明君(装景NOLA)のコーディネイトで出来上がったものだ。
長谷川君は時々仕事を手伝ってくれる栃木県那須市の職方だ。
クライアントのAさんは長谷川君がかつてアルバイトをしていた、コンビニエンスストアのオーナー。
この度自宅を新築され、ならば屋上庭園を造ろう、ということになり、そこでかつてのアルバイトである長谷川君に声がかかった、という訳だ。
Aさんの店でバイトしているとき、長谷川君は既に、学校を卒業して、造園会社で修行していた。
でも、修行中の給料では学生時代の奨学金を返済することができないので、しばらくの間コンビニエンスストアでバイトをして、奨学金を返済したのだという。
昼間肉体労働をして、夜コンビニで働くなんて、きっと大変だったろうけど、「真面目に働いていたから、こうしてAさんから声がかかったに違いない」と、何でも必要以上に美しく解釈する癖のある私は、胸を熱くした。
工事中にAさんにお会いしてお話をお聞きすることができた。
Aさんは何件かのコンビニエンスストアを経営されており、今まで雇ったアルバイトは80人を超えるという。
色々な若者と仕事をして、沢山の経験を積まれてきたAさんが「屋上庭園を造ろう」と思ったとき、長谷川君のことを思い出したのだから、きっと当時の働きぶりも真面目だったのだろう。
期待しながらAさんに当時のことを聞いた。
「長谷川君、真面目に働いていたんでしょうね」と期待を込めて尋ねると、Aさんはこう言われた。
「うーん、長谷川君はサボるのが上手だったね!」
人間、真っ白白(まっしろしろ)ということは、ないものだ。
私は深夜のコンビニで、仕事中に上手に居眠りする長谷川君の姿を思い浮かべながら、目の前で仕事をしている長谷川君を見た。
目の前の彼は、必要以上に美しく解釈しなくとも、真剣に、真面目にやっている。
Aさんも長谷川君を信頼していなければ、自宅の屋上庭園を造って欲しい、なんて頼まれないだろう。
A邸の屋上庭園は、植栽基盤をイケガミが施工し、植栽の設計施工を長谷川君が行うという体制で造られた。
植栽基盤の施工の責任者の小口和義は長谷川君の先輩でもある。
植栽チームには同じ学校の樋口道彦君も参加している。
チームの平均年齢は30歳代半ばかな。皆生き生きと働いている。
独り平均年齢を上げている私は、さっさと地上に降りた。
するとトラックの荷台に、私より年上のと思われる男性がおられた。
長谷川君の父上だった。外仕事で焼けた肌と、深く刻まれた皺が経験を物語っていた。
父上はこの屋上庭園に込められた長谷川君のストーリーをご存知なのだろうか?
聞くだけ野暮だな、と思いとどまり、お礼とご挨拶をして、現場を後にした。
しばらく歩いて、交差点でふとA邸の方を振り返ると、屋上にひょろりとした植木が風になびいているのが見えた。何となく長谷川君の風貌に似ているような気もする。
バックの空が抜けていて、とても清々しい。
屋上庭園にも、造る人にも、色々な物語がある。
そして、こういう若者たちが仕事に参加してくれるイケガミは、とても幸せな会社です。
A邸屋上庭園
植栽設計施工:長谷川隆明(装景NOLA)
植栽基盤設計施工:小口和義(株式会社イケガミ)
施工協力:樋口道彦(庭色樋口)
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