今ではメーカーや、他にも色々な人が「植栽基盤に一番大切な要素は『通気・排水』です」と言われてます。親の仕事を継ぐ気が全くなかった私が、父の会社に入った(否、入れていただいた)のは今から23年前のことですが、会長(当時は社長)は、その頃から「通気と排水は一つのセットで、これが悪いと健全な緑は育たない。」とよく申しておりました。(今も言い続けています。)
私自身は「へぇー、そんなもんかね」とこれも今も変わらない呑気さでその金言を聞き流していたわけですが、そのことを身を以て知る機会がありました。
今から13年ほど前のことです。ある住宅の外構植栽が育たない、と相談を受けて改良工事をすることになりました。最初は「日当りが悪いから育たないのかな?」と思いましたが、日陰で育つ植物もあるわけですから、それだけが原因とは言い切れません。
少し話はそれますが、このところ夏の日差しが以前より強くなっているという印象を持っています。子どものころも、今も夏の日差しが強いのは変わらないのですが、なんだかここ数年の夏の日差しは暴力的に強いような気がします。オゾンホールのせいもあるのでしょうか。
そのせいかどうか分かりませんが、従来「日向でないと育たない」と言われていた、あるいは思い込んでいた植物がちょっとした日陰でもわりと頑張って育つような気がします。あくまで、あくまで私見ですが、以前より日差しが強くなった分、それまで届かなかったところまで、日差しが届くようになって、植物が育ちやすくなったのではないか、そんな気がしているのです。(繰り返しますが、私見で、感覚以外の根拠はありません。)
それと、客先で「積極的に日陰や木陰を作りましょう」などという話も以前より理解されやすくなりました。「日陰」が、夏場の日差しからのエスケープゾーンとして捉えられるようになり、今まで文字通り日陰者扱いされてきた「日陰」の評価が上がっているような気もするのです。「日陰」はこれからの都市でますます重要になっていくでしょう。シェードガーデン、なんていう手法もありますしね。
日陰は以前のように住宅外構のネガティブな要素ではなくなっている、日陰でも植物は育つ、植物が育たない要素は日照以外にもある、ということを言うのに長々と話が逸脱しました。
件の住宅で、会長に「植物が育たない」ことを相談すると「それは通気排水が悪いからだ。中を掘って確認してみよ。」といつもの答えが返ってきました。何だかどんな病気でも葛根湯を処方する薮医者みたいだな、と正直思いつつ(経験不足で浅はかな訳ですから...)言われた通りにその場所を掘って土中の状況を確認しました。
30cm,50cmと掘っても、これといって生育不良の原因は見つかりません。「やっぱ、別の問題があるんじゃね?」と思いながら更に掘り進むと、1m位のところで、コンクリートの床、それも相当頑丈なそれが出てきました。
その住宅は細長い形状の鉄骨で、敷地内に同じく鉄骨のスクリーンがあるのですが、どうやらそれら構造物を支えるために、相当頑丈な基礎が打ってあるらしく、それが地中でつながって、コンクリートの床ができていて、ほぼ地面と遮断されていたのです。
ドリンクをストローで飲む時、ストローの頭を指で塞いで引き上げ、それで指を離すと一気に中のドリンクが落ちてきますが、あれと同じことが地中でも起こっていたわけで、つまり雨が降っても、水を撒いても、全く水がしみ込まず、空気も取り込まれないので、植物が育たない。
なるほど、こういうことか、と今まで聞き逃してきた金言、いや原則を目の当たりにして、初めてそのことの大切さに気がついたわけです。言われた通り実践をして、目の当たりにして、初めて身に付くことがありますね。貴重な体験でした。その後空気が取り込まれるような処置をして、植栽が育つような基盤を作り、その仕事を終えました。
このたび、そのお客様から実に13年ぶりに声をかけていただき、再度庭の改修工事を行うことになりました。今度は家族構成の変化によるもの、そして年をとった大型犬のための改修なのですが、先日久しぶりにそのお宅にお邪魔して、当時のことを色々思い出して、懐かしさと、今も以前も変わらない植栽基盤の原則のことを改めて考え直しています。
その工事が来週始まります。
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