「自宅周辺の土地は、地球上の九十パーセントを占める、農業に適さない土地(ある種の牧草地以外)に分類できる。私の家の場合も固く締まった重い粘土質の土地だ。これを耕すために二度堀りして、シャベル二本の柄を折るはめになった」(「社員をサーフィンに行かせよう」イヴォン・シュイナード著)
日陰で植物がなかなか育たない、という話をよく耳にします。実際そのような相談を受けて現場を拝見するのですが、殆どの場合日照条件ではなく、他の条件で生育が悪くなっていることが殆どのようです。
そもそも日陰で植物が育たない、ということはなさそうです。googleで「日陰で育つ地被類」と検索すると、決めるのに困る位の樹種が表示されますからね。検索するまでもなく、植木屋さんは日陰で育つ植物を沢山知っています。
では「他の条件」とは何か?一言でいうと土壌環境です。
私たちは木を植えるとき、目に見える条件、日当りや風通しに目を奪われがちですが、植物が水分と養分を吸収する根の張る大切なスペースである「土壌」の環境を考えなくてはい、ということになります。
いくら良い植物を選んでも、土壌環境が悪いと、植物は健全に育つことができません。土壌環境の一番大事な要素が「通気排水」です。
他にも養分という条件がありますが、これは殆ど二の次で、排水と通気さえ良ければ、かなりの確率で良い植栽、良い庭を手に入れることができます。養分のことをないがしろにするつもりはないのですが、収穫を目的としない造園植栽は、イメージされるほど沢山の養分を必要としないのです。多いより少ないほういい、とも言えます。そのことについては別の機会を設けて説明しますが、一番大事なのは「通気排水」です。
写真はある施設の植栽改修をするために事前に行った試掘調査の状況です。施工後数年を経ても植栽が育たない状況に疑問を抱いたクライアントからの要望で行いました。掘り進んでみると、地表からマイナス300mmのレベルで水が出てきました。周辺の排水が植栽地に集中している上、排水が悪いので、ご覧のような状態です。溝泥のような匂いがします。
ただ排水が悪いだけでも問題なのに、その上「シロモンパ」と言われる菌が繁殖していて、放っておけば他の植物に伝染し、枯れてしまいかねない状況です。
地下に何かしらの遮蔽物があり、それが排水を悪くしています。排水が悪くなると通気が悪くなって、嫌気性の微生物やシロモンパのような悪い菌が増えるので、土壌環境は悪化の一途をたどります。悪条件で全く発根していない植物もあります。
改善策として地下の排水を阻害している層を壊して、溜まった水が円滑に排水しやすいように穴をあけることになりました。重機にオーガーという直径200mmの大きなドリルを取付け、穴を空けます。この時は約4mの深さまで穴をあけたところで、ようやく排水するようになりました。元々の土壌は、前述のシロモンパは繁殖している恐れがあるので、取り除いた上で、殺菌剤を散布します。殺菌剤は使い過ぎるとよい菌が増えるのを邪魔するので、最低限の使用量とします。
そして新たに二種類のアクアソイル(排水用・育成用)を敷き込み、植物が水分を吸収しやすいように、改良材を加え適度な固さにし、十分な通気排水を確保します。
そうやって土壌環境を整えると何が起きるのでしょうか?
写真は植栽後3日経ったケヤキの根です。同じ場所に植栽されていた前のケヤキは、植栽後1年を経過しても殆ど発根していませんでした。土壌環境を整えるだけで、こんなに素早く根が生えてくるのです。真ん中あたりに白い根が生えているのが分かるでしょうか。(この根を見たとき、現場の全員が歓声を挙げました。感動の光景でした。)
やはり同じように改良した現場内の別の場所では、日陰にも関わらずレモンが実り、クヌギの実生苗が育っています。他の植物も、瑞々しく育っています。
土壌環境を整えれば、植物は育つ。そのことは知っているつもりでしたが、ここまではっきりとそのことを見せつけられたのは初めてのことです。継続して観察しながら、他の仕事にも生かしていきたいと思います。
イヴォンが家庭菜園で「スコップの柄を二本折って」学んだ、と書いているように、後から行う土壌改良には少なくない労力が必要になります。外構植栽を検討されるときは、樹種は勿論のことですが、土壌という隠れた環境にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
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