前々回の記事で自動灌水システムの運用についての記事を書きました。
あそこまで「水、水」と書くと最近流行の「無潅水で育てられる植物」がいいのか、と思われる方もいるでしょうね。それで少し心配になったので、「無潅水で生育可能」といった植物固有の性能に着目した緑化について、書いてみます。「手間いらず」「一年中緑です」「緑被スピードが早い」といった性能で売り出し中の緑化植物にも当てはまるのではないかと思います。
【ここでは植物そのものについての善し悪しではなく、使い方について書いています。実際に使ってみて効果を確認されたり、楽しんでいる方を否定するつもりは全くありません。効果についても同様です。そのつもりで読んでいただけたら幸いです。】
かつてセダム(メキシコマンネングサ)が「ノーメンテナンス」で育てられるということで、緑化関係の展示会がセダム一色になったことがあります。
その後あの都知事が「屋上緑化はCO2を吸収しないからダメだ」と発言。(この屋上緑化はセダム緑化を指していると推測される)それをきっかけに、セダムブームは去り、その後「枯れるのではなく『仮死状態になる』ので雨が降ると生き返るというコケ緑化が注目され、最近ではイワダレソウやアキノキリンソウが、「手間のかからない植物」としてもてはやされているるようです。
そんなに手間をかけるのが困るのなら、屋上緑化などしなければいいと思うのは私だけでしょうか。そもそも「手間のかからない植物」とは何でしょうか?ランニングコストを抑えるためや、景観上あるいは経済性だけで、特定の植物を、特定の場所に持ち込むことについて、検証が必要なのではないか、と思います。
実際私も、緑被のスピードが早い、という理由でヤマホロシ(ツルハナナス)を自宅に植えた事があるのですが、その成長の早いこと、あっという間にデッキを覆い尽くしてしまいました。猛スピード、暴力的とも言えます。最後は電線を伝って他の敷地にも伸び始めたので、怖くなって根元から切って、取り除きました。
小さな花が一面に咲く「手間いらず」「素早く緑で被います」が売り物のマット状の植物。「うーん、いかがなものか...」と思いつつクライアントの要望で採用。使ってみると小さな葉に可憐な花がびっしり。ミツバチが飛び交う、その可愛らしい風景を見て、「この風景を心底否定出来る人は少ないだろうなあ」とも思います。
でも、繁殖スピードが他よりも早いということは即ち「他の種を素早く駆逐する」ことを意味します。可愛い花が身近な在来種を駆逐させることも、あり得ないわけではないのです。
ジャガイモ飢饉は、収穫量を優先して遺伝的多様性を無視した結果起きたと言われています。ブラックバスやブルーギルの話はあまりにも有名だし、ハブを駆除しようとしてマングースを連れてきたら大変なことになったという島の話もあります。
私は植栽基盤の専門家なので、植物の生態にとても詳しいわけではないのですが、それでも、単一種が一部の地域に集中的に持ち込まれたら何が起こるのか、は容易に理解できます。生態系にとって好ましくないことは明らかです。
もうとっくの昔に生態系が切り刻まれてしまった都市部に、どんな生き物が持ち込まれようと大差ないのではないか、そう考える方もいるだろうけど、逆に言えば、屋上等の人工地盤はゼロから環境をつくれる。かつてそこにあった生態や風景を再現したり、そのきっかけになることも十分可能です。
こういうことが出来るのも、屋上緑化のいいところです。
だから「水やり不要!」とか「一年中緑!」ということだけで特定の植物を選ばないで、なるべく沢山の植物が植えられて欲しい。せっかくの屋上緑化がまちの環境を取り戻すきっかけになるように、そう願って仕事をしています。
こんなに大規模でなくても、こういうコンセプトの屋上緑化が増えたら、本当に素晴らしい。
再び注:セダムなど多肉の植え込みは様々な葉の色や形が楽しめて、美しいものです。しっとりと湿った苔に覆われた庭は、マイナスイオン云々言われる以上に心地よいものです。小さな葉と可憐な花でカバーされた緑地には、言い知れぬ可愛らしさを感じます。ここに書いたことはあくまで「植物の使い方」のことで、植物そのものや楽しみ方を否定するものではありませんので、どうぞご理解下さい。
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