緑は、単なる人間のための酸素発生道具でも、都市を縁取るアクセサリーでもない。緑が人間の奴隷になっていく形ではなく、「緑と人間の共存形態」がこれからの方向であろう。
池邉陽「デザインの鍵」ー緑と人間の共存ーより
壁面緑化が流行りです。ここでいう壁面緑化とはワイヤーやネットを張ってつる性植物を登攀させる一般的な手法ではなく、ユニットその他を壁面に取り付けて緑化をする手法のことです。
イケガミさんは壁面緑化をやらないんですか?とよく聞かれます。かつては壁面緑化に挑戦したけど、今はやっていません。
「なぜ『自動灌水システムなし』にこだわるのか」でも書きましたが、平成23年に新たに造られた壁面緑化は8.9haだそうです。1㎡あたり1万5千円としても、約13億円の売り上げです。これに乗らないのは商売上手とはいえませんね。先日社内で緑化に関する洋書を沢山仕入れたので、見てみると世界にも沢山の美しい壁面緑化があります。壁面緑化を手がけない私たちは、どうやら世界の流行からも取り残されたようです。
しかし、どうしても植物を壁に垂直に取り付けることに積極的に取り組めないのです。
壁面緑化では、重力に逆らって据え付けられた植物に、これまた重力に逆らって必要な水分をとどめておかなくてはなりません。これは難しいことのように思えます。水分をとどめておくことが難しいので、植物を重力流去水で育成しなくてはならない。つまりある時間帯に水を出しっ放しになる、ということです。
取付も、フレームを組む、アンカーで止めるなどの建築技術に頼るわけですが、これが30年、40年を経てどうなるのか、取付部の定期的なメンテナンスやリニューアルが必要なことは言うまでもないでしょう。万が一落ちたら大変なことになる。
あの場所に連れていかれた植物も、ご苦労なことだと思います。口がきけたら「ナンデオレタチコンナトコロニイルノカネ?」と言うんじゃないか、と。
そんな風に色々考えると、この緑化手法には手を出せなくなってしまうのです。
確かにパトリック・ブランの壁面緑化は美しいと思います。壁面緑化を手がける女性だけの集団の仕事も、同じように美しい。安全面での検証も重ねられているのでしょう。これのどこが悪いの?と聞かれると答えに窮します。
我が社で突発的に始まる役員会議(とはいっても会長と社長の二人だけ)でも、壁面緑化が話題になります。「壁面緑化、手を出すべきか、否か...」このことについての結論はいつも同じで、会長の「あれが長期間にわたって都市の環境を向上させるとは思えない」という発言に私が頷いて終わります。
学生の頃(1989年頃)の「写真基礎」の講義でのこと、教授が「将来にわたってデジタルカメラが、銀塩写真に勝る事はあり得ない」と言い切っていたことを思い出しました。でも今はご存知のような状況です。権威ある大学教授の見解も簡単に覆るのだから、何が起こるか分からないのが世の常。
アクロバティックに装着された緑が、環境を向上させるかどうかを判断するにはもう少し時間がかかるでしょうが、何年か経って商売下手の零細企業の予想が外れ、壁面緑化が環境向上に大幅に貢献する、ということになったら、それはそれで素敵なことだと思います。
写真は13年前に施工された緑化。地上に植えられたアイビーを、ネットに絡ませるというシンプルな手法です。クライアントが辛抱強く見守った結果、美しい垂直緑化に育ちました。時間をかけて育てられた緑も、やはり美しい。
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