工期50日間、延べ人数190名を投入した「フィートリッヂ緑が丘保育園」の草屋根工事の引き渡しが終わりました。
関係者の皆さんに心から感謝申し上げます。
ありがとうございました。
最大勾配は十七寸、約60°。三工区に分かれた九つの棟が複雑に組み合わさった屋根面積は1000㎡超。この屋根を緑化する、というのが今回与えられたミッションでした。
勾配屋根の緑化には「植栽システム(アクアソイルと植物)を屋根の上で安定させる」「漏水をさせない」という二つの課題があります。
屋根面で植栽システムを安定させるためにビスやアンカーを利用すると、漏水の可能性を残す事になるので極力使用したくありません。
滑り止めなしでどうやって植栽システムを安定させるのか?
2003年の「草屋」では、二つの課題を解決するために、屋根面を加工せず、アクアソイル工法を安定させる「草屋根工法」を開発しました。
湿ったタオルを広げて、テーブルなどの平滑面に置き、それからテーブルを傾けてみると、タオルは簡単には滑り落ちません。
この理屈を緑化に応用したのが草屋根工法です。
以降、屋根面の加工は行わず屋根の緑化を手がけ、「立はぜ葺き」「コロニアル瓦葺き」など様々な仕上の屋根で、経験を積みました。
勾配も緩勾配から7寸勾配まで、人が立って作業出来る屋根なら「何とか屋根を加工せずに緑化できる」という今日この頃...。
今回の屋根仕上げは野地板に自着式のアスファルト防水の二重貼。まさに「取りつく島もない」状態。
両側が均等な断面はどこにもなく、カウンターバランスを取ることも難しく、アンカーを取る事もできず。
そして最大勾配は、十七寸。
この条件化で、植栽システム全体を一体化し、「湿ったタオル」のように屋根に張り付くような状況を作るにはどうすればよいのだろうか?
崩落を防ぐためにはアクアソイルを植生土のう(牧草の種が吹き付けられた袋)に詰めて、並べるのが一番手っ取り早いが、それでは工夫がないし、仕上がりが美しくありません。
さて、どうしたものか?
ノートにあれこれ書き込んでいるうちに、ふとディテイルが思い浮かびました。ナイロンチューブにアクアソイルを詰めて、これを敷き詰めて連結すれば植栽システムが安定するのではないだろうか?
既に陸屋根で同様の技術を持つメーカーに問い合わせると、強度的には問題なさそうなので、この方法で進めることにしました。
ここまでは机上の論理、まあ私の妄想?ですからどうってことはないのですが、現場は大変でした。
私は「この方向性で間違いない」と確信していても、職人の誰もが初めての作業であり、不安になるのは当たり前です。
だれだって「システムが滑り落ちるのでは?」「芝生がずり落ちるのでは?」そう思うでしょう。
建築が複雑で、次から次へと難所がやってきたので、工程の進行に比例して「できる、できそう!」という手応えもつかみにくかったと思います。
一工区ではこの屋根の見た目にヤラレてしまい、どうも落ち着かない...。
二工区ではこの勾配を乗り越えつつ...。
こんな施工箇所もあり...。
この仕事、一緒に仕事をしてくれる職人がいなかったら、一歩も前に進めませんでした。
超弩級の難工事にも関わらず、いつも笑顔を絶やさず、明るく仕事をしてくれる彼らの存在に、どれだけ勇気づけられことか。
いまこうやって思い出すだけで、胸が熱くなります。(カワシマ君、この日は欠席でした。スミマセン。)
みんな、本当にありがとう。
2003年「人々が見て楽しいと思える、自分もやってみたいと思える草屋根を」と、依頼されて初めて手がけた草屋根。
そして10年目の今年、新しい広野に足を踏み出すことができました。
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